檸檬-レモン-




けれど、夢は諦められなかった。

美智子も夢も諦めたら、自分には何も残らない。


カフェ"レモン"をオープンさせよう。


来る人を笑顔にできる、癒しの場になるように。

自分の作った料理で、一瞬でも誰かを幸せにできるなら。

それが、俺の生きがいになる。

たった一人をしあわせにできずとも…


美智子は会社で出逢った上司と結婚したと、風の噂で聞いたのは"レモン"がオープンしてすぐのことだった。


寂しくないと言ったら嘘になるけれど、俺には誰かをしあわせにする器量なんてない。

頭の中はいつも店のことでいっぱいだ。

失う辛さも、負い目も何も考えなくて済むなら、こうして生きていく方が楽だ。


俺はしあわせだ。


"レモン"に来たお客さんが、料理を食べて頬をゆるめる姿。

良かったと思う。

ここまでの道のりは決して容易ではなかったけれど、何度も道を踏み外したこともあったけれど。


後悔は一切ない。



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