檸檬-レモン-
何かが始まるときも、終わるときも。いつも夏だ。
それだけの事だけれど。
息苦しくて、何かを求めてしまう。
簡単に、俺の築いた概念を壊されてしまいそうで。
レモンタルトを食べて、瞳をキラキラさせた彼女を心の端で想う。
何度も試行錯誤して作った、自信作。
甘さと酸っぱさをバランスよく引き出すさじ加減には、三日三晩厨房にこもったくらいだ。
最初から、クルミさんに食べてほしかったのかもしれないとどこかで思った。
胡桃沢 奈々。
惹かれておきながら名前を間違っていたなんて、なんて失礼なのか。
レモンを刻みながら、クルミさんを思い出してくすりと笑う。
けれど、これ以上は踏み込んではいけない。
胸の内で、警報が鳴った。
.