檸檬-レモン-



何かが始まるときも、終わるときも。いつも夏だ。

それだけの事だけれど。

息苦しくて、何かを求めてしまう。

簡単に、俺の築いた概念を壊されてしまいそうで。

レモンタルトを食べて、瞳をキラキラさせた彼女を心の端で想う。


何度も試行錯誤して作った、自信作。


甘さと酸っぱさをバランスよく引き出すさじ加減には、三日三晩厨房にこもったくらいだ。


最初から、クルミさんに食べてほしかったのかもしれないとどこかで思った。


胡桃沢 奈々。


惹かれておきながら名前を間違っていたなんて、なんて失礼なのか。


レモンを刻みながら、クルミさんを思い出してくすりと笑う。


けれど、これ以上は踏み込んではいけない。


胸の内で、警報が鳴った。




.
< 87 / 97 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop