檸檬-レモン-
「じゃあ…何で…」
ゆらゆらと揺れる瞳の奥が、涙で光る。
「…怖かった」
彼女の頬から、こめかみに向かって髪を撫でる。さらさらと長い髪は、指通りがよく愛しい気持ちを更にかき立てる。
「こんな俺に誰かをしあわせにできる自信もなくて、失うことに怯えていた」
「…バカだね。でも、あたしも同じ」
大きな瞳から落ちる涙が、儚い真珠のようで。
指ですくうと消えてなくなる。確かな熱を残して。
「あたし、篠崎さんが好き。ずっと前に進めなかったあたしに、また恋をすることを教えてくれた…」
強く、抱きしめる。
愛しくて愛しくて…
惹かれ合うって、奇跡に近いんじゃないかと思う。
ここに越してこなかったら、君に出逢うこともなくて。
同じ気持ちになるなんて、俺の未来に想像もつかなかったことだった。
どうしようもなく、胸が愛しさで溢れる。
あの息苦しさではなく、しあわせで苦しくて。
それは、レモンの果汁を口に含んだ時とよく似ていた。
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