檸檬-レモン-
<after story>それぞれの、しあわせ
Michiko Yanai
駅前で貰った一枚のチラシを、見ていた。
胸が、じりじりと切なさで焦げる。
「6月29日…オープン」
カフェ・レモンのオープンは、涙が出るほど嬉しかった。
れもが、ずっと追い続けていた夢。
私はそれがどんなに大変で、険しかったか知っている。
なのに、私は…
「…おめでとう」
そして、ありがとう。
れもは、ちゃんと私を想っていてくれた。
私は、自分の弱さゆえに最低な事をしてしまった。
忙しいれもに、不安になって。職場の上司と浮気をして…
れもを傷付けた。
れもの彼女として、私は何一つしてあげられなかったのに。私はいつも、彼氏としてのれもを求めるばかりだった。
れもと別れて、私は結婚した。
「美智子?どうした?」
「…ううん、何でもない。行こう?」
チラシをさっと、バッグにしまって。笑顔で彼の腕に手をまわす。
私は、しあわせです。
ただただ、伝えたい。
私はれもと過ごした日々も、とても大切だし、しあわせだったよ。
6月29日。
私達の、記念日にしてくれていたんだね。
ありがとう。
しあわせに、なって。
誰よりも、しあわせに…。
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