月のセレナーデ
「あ、いえ、変な意味じゃなく、素直にかっこいいなぁって思っただけです」

顔は平然を装っていたが、内心冷や汗がだらだらと流れていた。

先生は少し驚いた様子でこちらを見たが、運転中だった事を気にしたのか、すぐに前方に向き直った。

「驚きだな。いつも冷静沈着な石川がそんなこと言うなんてなー。勉強ばっかりじゃないんだな」

先生の私のイメージは、大人しく冷静で、頭の良い人だったらしい。いつも傍観側で色話には興味を示さないと。

「そんなことはないです、私だって恋ぐらいしますよ」

「えっ?!好きなヤツいるのか?!」

罪な言葉を投げ掛けられ、『それは貴方だ』という言葉を飲み込みながら「いますよー」と笑顔を向けた。

先生は心底びっくりした様子で、口を開いたまま、此方を見た。

「先生ッ!前!!」

「あっ、うおっ!」

前には赤になった信号があり、急ブレーキをかけたために、私は前のめりになり、頭を打ち付けそうになった。

「す…すまん!大丈夫か?!」

大丈夫ですと答えると、先生はほっとした顔を見せた。

「真面目に運転します」

そう宣言して、車を発進させた。


家にはあっという間に着いてしまった。

もう離れてしまうと思うと、急に寂しくなり、この時間が止まってしまえばいいのにと思った。

車を降りる際、ふと気が付いた。


そういえば…
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