月のセレナーデ
「ありがとうございました」

「いいえ。じゃあ、またね」

そう言って私達は別れた。

結構な距離を走ってきたが、私にはたった数分にしか思えなかった。

もっと、側にいたかった。



物足りなさを抱きながら、庭の土を踏みしめた。

見慣れ飽きた家のドアを開けると、そこにはかつて見たことのないほど悲惨な状況が広がっていた。


玄関には靴箱に入っていただろうと思われる父や母、私や弟の靴が全て外に出してあった。

リビングに入ると、段ボールがあちこちに積み上げられ、新聞紙が床一面に広がっていた。

埃の被った箱が部屋の隅に置いてあり、一つを開けてみると、普段出すことのない綺麗な装飾の皿やコップが入っていた。

私は呆気にとられて呆然と立ち尽くしていると、いきなり後ろからにゅっと、暗い顔をした母が現れた。
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