月のセレナーデ
「でね、その社宅って元々1人暮らし用だから、4人はおろか3人でもう限界なのね」

も…物凄く嫌な予感がしてきた

「お母さん、もう遅いから寝なきゃ…」

「だ・か・ら」

逃げるように寝室に行こうとすると母は肩に置いた手にぐっと力を込めた。

逃げられない…!

「夏実だけ、知り合いの人の所に住んでもらう事になったから!」

はいぃ?!

頭を打ち付ける衝撃が体中に響いた。開いた口が塞がらない。
どうしてこうもこの人は突拍子なことばかりするのだろう。

「なんで私なの?豊でも良いじゃない…!」

「豊はまだ中1じゃない!お姉ちゃんなんだから、我が侭言わないの!」

「我が侭って…、我が侭言ってるのはどっちよ!」

私は滅多に出さない大声で怒鳴った。
こんなに理不尽なのは久しぶりだ。

「じ…冗談止めてよ。私まだ高校生だよ?」

「ちょっとの間だけよ~!大丈夫大丈夫!」

人事のように根拠の無い理屈を述べる母が腹立たしかった。

沸々と、行き場の無い怒りが込み上げてくる。
父や弟も輝かしい目でしかこちらを見なかった。



この中に、味方はいない。



「可愛い娘に、そんなことさせるのね」

「あら、可愛い子には旅をさせよって言うじゃない?」

大人は、どうしてこうも都合の良いことしか言わないのか。

それが子供である私の心境だった。

そうやって、言うことを聞かない子供を上手く丸め込もうとしているつもりだろうが、子供にとってそれは逆効果でしかない。

けれど、子供だが子供扱いされるのが嫌なのも子供だ。

私はもう諦めかけていた。

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