月のセレナーデ
父と母はにこにこと微笑みながら、こちらを見た。

手から落ちた写真を見ながら、空中に置き去りにされた手が小刻みに震えた。

「聞いてない…聞いてないよ」

私は両親をギッと睨んだ。
二人の顔から、満面の笑みが消える。

「誰よこの人は!こんな見も知らない大人の人と、しかも男!こんな人と大事な娘を暮らさせるのね」

「夏実…、これには色々事情があってね…」

私は母の言葉を聞かずに、学校鞄を引っ掴んでドアに手をかけた。
もうこれ以上、見苦しい言い訳など聞きたくなかった。言葉が重なるたびに胸を締め付けるような痛みを覚えた。

「あたしは、この家には要らないみたいね」

そう言い残し、私は自分の部屋に籠った。


嫌だった。

引っ越すということは、学校を転校しなければならない、そして、あの塾を辞めなければならないということだ。

嫌だ。

それだけは嫌だ。

部屋に入ると、私は電気も付けずにベッドに倒れ込んだ。投げ捨てた鞄から学校の教材が床に雪崩れ落ちる。

その中にちらっと見えた紙切れは、あの服部先生が教えてくれたプリントだった。


雨は、まるで私を嘲笑うかのように再び降り出しており、いつまでも止む事はなかった。
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