月のセレナーデ
表情は平常心を保っていたが、嫉妬心が全く無いと言えば嘘になる。
私は胸に沸々と沸き上がる何かを誤魔化すように、窓の外を見た。

外は豪雨で、大粒の雨が屋根や窓、その暗闇を打ち付けていた。
その光景がまるで今の私の心境を現しているようでより一層、気分を鬱蒼とさることになった。




「ごめん、待たせたね、石川さん。で、どうしたの?分からないところでもある?」

「あ、はい…」

先生の体がようやく空いたのは、もう11時近くになってからだ。あの女子生徒と、勉強以外で話をしていたのだろうか。
だったら、一体何の話を…

とりとめのないことを考えながら、鞄からプリントを取り出す。

「ここなんですけど…」

数学の問題を指さすと、服部先生は「ふむ」と問題を見つめ、「ちょっと待ってね」と言って別の紙に計算をし始めた。

計算式をすらすらと書き上げていく先生を、私はじっと見つめた。

…まつげ、長いんだなぁ。

美形とまではいかないが、綺麗に整った顔立ちは、その歳とは思えない若さと凛々しさをかもしだす。

うっとりとみとれていると、先生は急に「んん?」と唸り始めた。

「どうしたんですか?先生」

「いや、おかしいな…。もうちょい待って!」

と、また別の紙に解いていく。


―15分後―

「あれー?おかしいな、計算が合わない…」

「先生、もういいですよ。諦めま…」

「嫌だ」

「え?」

「嫌だ。絶対解く!」

「な…なんでですか?」

「この俺に解けない問題があるなんて許せない」

「…」
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