月のセレナーデ
外に出ると、雨はまだ降り続いていた。

ひたすら落ちてくる雨粒を見つめながら、私は困り果てた。

「参ったなぁ…、傘持って来てないや」

近くの駅まで走ってやろうと意気込んで、鞄を頭に載せて走ろうとしたときだった。

突然、目の前に何かが滑り込んできた。



真っ黒なスポーツカーだった。



と、助手席のドアが開き、服部先生が顔を出した。

「乗りなさい。送るから」

「えっ?」

ドキッとした。余りに急なことに体が固まって動かない。

どうしてそんなこと言うのか分からなくて、パニックな頭で必死に考えた。

「こんなに遅くなったのは俺の責任だからね。だから送らせてよ」

先生は困ったように私にそう言って笑顔を向けた。

…なんだ、そういうことか。

分かってはいたが、実際に思い知ってしまうとかなり辛い。



遠く離れている私と先生との距離。



私は車に乗り込むと、静かに発進した。
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