月のセレナーデ
沈黙の車内。

聞こえるのは微かに機械音をたてながら動くワイパーの音と、車体に打ち付ける雨音だけだ。

私は息を深く吸い込んだ。

車内に漂う、あの独特の車の匂い。

先生の匂いが、肺いっぱいに広がるのが分かった。

…落ち着く…

乗り心地の良い椅子の隣で軽やかにハンドルを切る先生はかっこよくて、思わず見とれてしまった。

「変な顔してるか?」

先生は横目でちらっとこちらを見ながら言った。
気付くほど露骨に態度に出してしまったらしく、急に顔が赤くなるのが分かった。

「い…いえ。別に変って訳じゃ無いです。ただ…」

赤い顔と動揺する気持ちの中で、混乱した私は一体何をどう答えようか必死に思考回路を巡らす。

いまいちいい答えが見つからない。

「ただ、かっこいいなぁ、と思って…」

「へっ?」

なっ、何言ってるんだ私はーっ?!

とっさに、というかつい、本音が出てしまった。
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