声をくれた君に
episode#1
午前8時、写真の前で手を合わせる。
(ごめんなさい)
そう心の中で呟くのが毎日の日課。
私は横に置いておいたスクールバッグを背負い、家を出た。
玄関から一歩外に出れば注目の的。
明るく染めた長い髪、ブレザーから出るフード、短すぎるスカートに時代遅れのルーズソックス。
目立ちたいわけではない。
ただなんとなくハメを外してみたかった。
壊れていく自分を派手な格好でせき止めていた。
学校に着いても、教室に入っても、私にかけられる言葉はない。
代わりに注がれる冷たい視線。
そんなことはもう慣れている。
私は表情ひとつ変えず自分の席へと向かった。
が、自分の席はない。
(今日はどこにあるんだろう)
私はのんきにそんなことを思った。
だっていつものこと。
私は今まで隠されていた場所を順に探した。
廊下、ベランダ、トイレ、隣の教室。
探し回る私を見てくすくす笑う声。
慣れている。
それでもこんな耳、壊れてしまえばいいのに。
何度もそう思った。
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