声をくれた君に
私には、声がなかった。
約1年前からずっと。
このクラスに転入して来た日には、すでに声を出すことができなくなっていた。
過去に起こったある出来事がきっかけで。
私がいじめられるようになったのは、この出ない声のせいだ。
それでも私は、声が出せるようになりたいとは思わない。
「ごめんね櫻田さん、わざとじゃないのよ?」
小田さんは特に、何かと私をからかいたがる。
何か個人的に恨みでもあるのだろうか。
(そんなこと、どうでもいいけど)
「じゃあ明日の日直の佐野、代わりに号令かけてやれ」
「…起立」
彼は気だるそうに号令をかけた。
だが、非難や皮肉の言葉はない。
それだけのことで、彼が少し大人に見えた。
それからホームルームが終わると、私はヘッドホンで耳を塞いだ。
大音量の音楽の中なら、私はひとりになれる。
私の唯一の居場所。
いっそのこと、学校に行かなければいい。
何度もそう思った。
でも、それじゃあ負けを認めてしまうようで、なんとなく嫌だった。