声をくれた君に
episode#2
次の日の朝、私は無事退院した。
今は、佐野くんが私を家までタクシーで送ってくれているところだ。
「家には誰かいるのか?」
私は首を横に振った。
「いないのか?
でも医者は親に連絡したって…」
おそらく命に別状はないと聞いた父親は、そのまま安心して仕事に励んでいることだろう。
私は携帯で文字を打って佐野くんに見せた。
”ひとり暮らしだから”
「そうか」
彼はこれ以上深く踏み込んではいけないと思ったのか、何も聞いてこなかった。
「ひとりで大丈夫か?
不安なら、俺が一緒にいてやる」
(そんな風に言われると、甘えたくなっちゃう…
でもこれ以上佐野くんに迷惑はかけられないし)
「これ以上俺に迷惑かけられないとか思ってるのか?」
(え、心の中読まれてる…?)
「図星だな。
変な我慢はするな」
そう言って彼は優しい表情を見せた。
(今日は佐野くんに甘えさせてもらおう…)
私は佐野くんの袖をきゅっと掴んだ。
「うん、いいよ」
佐野くんは私の頭を優しく撫でてくれた。
タクシーが私の家の前に到着する。
私たちはふたり一緒にタクシーを降りた。
「ひとり暮らしって聞いてたから、アパートかマンションを想像してた。
普通に立派な一軒家…」
彼は私の家を見て驚いていた。
私はとりあえず佐野くんを家に入れることにした。