声をくれた君に
1時間目が始まる時間になり、数学の先生が教室に入ってきた。
「はい、号令」
先生がそう言うと、隣の小田さんがすかさず口を出す。
「ほら、櫻田さん、早く号令かけないと」
「だからそいつしゃべれないっつってんだろー、ハハッ」
ひとりの男子がツッコミを入れて、クラスのみんなが笑いはじめる。
こんなくだらないことで笑えるなんて、彼らは心底幸せ者だ。
ほんと、くだらない。
「おい、お前らわざとやってるんじゃないだろうな」
担任とはちがって、この数学の教師はいじめを把握していない。
「わざとじゃないですよー」
小田さんの甘ったるい声、耳障りだ。
「そうか、じゃあ誰か代わりに」
「起立」
再び佐野くんが、気だるそうに号令をかけた。
やっぱり教師はみんな同じだ。
何も問題が起こらないことを、平和な一日を過ごすことを望んでいる。
きっと何かに気づいても気づかないふり、何も疑わないようにしている。
期待していたわけでもないし、悲しくはない。
ただ、広がる絶望感。
私はおとなしく数学の教科書を開いた。
少しくらいは学校に来る意味がほしい。
だから私は真面目に授業を受けた。
「そこの問題、ノートに解いてみろ」
私は先生に言われた通りノートにスラスラと解いていく。
生きていくことだって、
数学みたいに答えがあって、簡単だったらいいのに。