声をくれた君に


ーー保育園に迎えに来るのは、いつもお父さんだった。

まだ辺りが明るい頃、お母さんと手を繋いで帰っていく友達たち。

私はそれを窓からじっと眺めていた。

日が沈み、星が綺麗に見え始める頃、誰もいない教室に先生の声が響いた。

「珠李ちゃん、お父さん迎えに来たわよ」

その声を聞いて、私は一目散に教室を飛び出した。

「ぱぱ!」

「珠李!

ごめんな、今日も遅くなって。

先生もすいません、いつも遅くまで」

お父さんはいつもぺこぺこと先生に頭を下げていた。

「いえいえ、珠李ちゃんは大人しくていい子ですから、助かってますよ」

「そうですか、よかったです。

それじゃあ明日もよろしくお願いします。

珠李、帰ろっか」

「うん!

せんせー、ばいばい!」

「はーい、さようならー」

私はお父さんの手をぎゅっと握って歩きはじめた。

私はこの帰り道、お父さんに何度も何度も同じ質問をしていた。

「ねー、どうして珠李のままは迎えに来ないの?」

「…入院してるからだよ。

珠李もママが病院のベッドで寝てるの知ってるだろ?」

お母さんは私が物心ついた頃から、ずっと病院で入退院を繰り返していた。

それは知っていたけれど、幼い私にとってはお母さんが入院していること自体が疑問に思えたのだろう。

友達のお母さんはみんな迎えにくるのに、私のお母さんは迎えに来ない。

どうしてみんなと違うのかって、小さいながら考えてたんだと思う。

「ママはいつも病気と一生懸命闘ってるんだ。

だから一緒に応援してあげような?」

「うん…」

私は繋がれたままのお父さんの手をぎゅっと握り直した。

眉をハの字にして困ったように笑ったお父さんの顔は、今でもよく思い出せる。

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