声をくれた君に
episode#3
私たちはそのまま一緒に教室に戻った。
「よかったな
声、出せるようになって」
「うん!」
「どうしていきなり出るようになったんだ?」
私は数分前のことを思い出した。
「一生懸命お願いしたの。
佐野くんを呼び止めるための声をくださいって…
そしたら願い事、叶っちゃった」
「なんだよ、その可愛い願い事…」
「か、可愛い…!」
「ばか、そういう反応されるとこっちも困るから…」
お互いが照れてそっぽを向いた。
「でも、しゃべる櫻田っていうのは、なんか違和感だな…」
(あ、苗字に戻ってる…)
少し残念に思えた。
「おい、どうしたんだ」
「別に、なんでも…」
私はほっぺたを膨らませてみせた。
「あんたは俺が何でもお見通しなことを忘れたのか?」
「え…?」
彼は私の耳元に唇を寄せた。
「珠李」
一気に体中の熱が顔に集まるのがわかった。
「そ、そういうのはズルいよ、だめだよ…」
「じゃあ櫻田でいい?」
「だ、だめ!」
「わがまま」
「ふ、ふつーに呼んでほしいの!」
優しい彼だけど、こういう時は意地悪みたいだ。
(でもこういう佐野くんも好きだな…)