*短編集* 『 - 雨 - 』
十あれば二くらい抜けちゃってる黒田が、細心の注意を払ってまで続けている友達関係。
それに気づいていたから……だからこそ私は、好きの言葉を今まで言わずにきたのかもしれない。
黒田を困らせたくなくて。
なんて言えば、全部黒田のためだと押し付けているみたいだけど、結局のところ勇気のない自分のせいなのは分かってる。
でも……言えないんじゃなくて、言いたくなかったんだ。
友達だって信じて病まない黒田に好きだなんて言ったら。
あんなに黒田がしっかりと壁を作って期待させないようにしてたのに、好きだなんて言ったら……。
きっと呆れられちゃうと思ったから。
黒田の瞳に、失望の色が広がっていくのを見るなんて耐えられないと思った。
――だから。
手に入らないのなら、切り捨ててしまいたかったの。
あんなに壊したくなかった友達関係ですら、全部。
私のものにならないのなら。
黒田の、友達としての好きの気持ちなんて何の価値もなさないし……もういらないと思ったのはいつだっただろう。
恋を知ってしまった心は貪欲で、どこか極端で……そして薄情だ。
ぼんやりと眺めていた空に、ポン、と傘を開いて歩き出す。
そしてお店の前を通り、さっきまで座っていた席を窓越しに眺めた時。
黒田の姿がない事に気付いた。