*短編集* 『 - 雨 - 』
「俺、知ってたんだ。先週偶然大学時代の友達に会って……それで、榎本が結婚するって聞いた。
それ聞いた時は、正直驚いたけど……でも、笑って送り出してやろうと思ってた。
一番大事なヤツが一番幸せな時を迎えるんだし、祝わなくてどうするって」
「だから、今日の話が多分結婚の話だろうって言うのは、最初から知ってた」と言う黒田に驚く。
だって……そんなのおかしい。
「知ってたって……じゃあなんで私が結婚するって言った時、あんな動揺してたの……?
今まで見せた事のないような顔して動揺してたじゃない」
そうだ。黒田は驚いてた。
まるで初めて聞いたみたいに。
眉をしかめながら聞くと、黒田が「あれは……」とためらいがちに答える。
「話の内容に驚いたんじゃなくて、榎本の表情に驚いてたんだ。
榎本が、あまりにツラそうに必死に笑うから……俺の前で、初めて女の顔するから……」
笑顔がうまく作れなかった事には自覚があるだけに、恥ずかしくなって顔が少し熱を持つ。
カッコ悪く感じて目を逸らした私に、黒田が続けた。