*短編集* 『 - 雨 - 』


……だけど。
友達の私には見せないような瞳の色で見つめてくる黒田に、信じられないなんて思いはすっと消えて行く。

友達としてではなく、ひとりの男として私を見つめる瞳に……共鳴した黒田への想いが溢れ出す。
次から次へとこみ上げる想いが呼吸さえも苦しくして、声の出し方すら忘れさせる。

『榎本が好きだ』

耳の奥でリピートされるその言葉が、まばたきの仕方も唇の動かし方も。私全部の動かし方を奪っていた。

「榎本?」

なかなか返事のできない私を黒田が遠慮がちに呼ぶから、やっとの思いで空気をすっと吸い込んだ。

さっき痛かった胸が、理由を変えてまたきゅっと痛み出す。
奥の方まで、堪らないほどに。

さっきよりも、強く。深く。

「今更そんな事言って……だって、どうするのよ、これから」
「相手の男には、俺が誠心誠意謝るよ」
「謝って許してくれるなんて思えない……っ。会社にだってもう報告するところなのよ?!」
「どうにでもするよ。俺が」

じっと見つめてくる黒田の意思のこもった瞳に、下唇をかむ。
黒田の顔がかすむのは、浮かび始めた涙のせいなのか、霧雨のせいなのか。



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