*短編集* 『 - 雨 - 』


「結婚式だろうがバージンロードだろうがどこだろうが。
俺が榎本の隣にいたい。
そう思ったら店飛び出して榎本の肩掴んでた」

きゅっと握られた手を眺めている私に、黒田が言う。

「会社、辞めさせる事になるかもしれないけど……ごめん」

婚約者から私を奪えば、会社に居づらくなるのは当たり前の事。
つまり黒田はそういう事を言っているのだろうと分かり、苦笑いがもれる。

私が最初から黒田を選ぶと思っているんだと分かって。

私はまだ自分の口から好きの言葉を告げてもいないのに……本当に全部お見通しなのかとおかしくなってしまった。
私が黒田の表情や仕草ひとつで気持ちが分かってしまうように、黒田もそうで。

それなのに、お互いの気持ちだけは読めなくて……。
居心地の良さと引き換えに、恋人という関係を勝手に諦めてた。

友達という関係を守りたいがために必死に築いた壁が、お互いの気持ちを隠していたんだ。

近すぎた、と言えばそうなのかもしれない。
代わりなんていなからこそ、失えなかった。

だからこそ……すれ違っていた。


< 16 / 59 >

この作品をシェア

pagetop