*短編集* 『 - 雨 - 』
しとしとと。
降り出したばかりの、目を凝らさなければ空気の中に溶け込んでしまうような小さな雨粒が、窓にぶつかり滴として形になりそのまま流れ落ちる。
梅雨と呼べる季節を迎えて、もうどれくらいが経つだろう。
毎日飽きもせず降り続く雨は、生きる上で必要だと分かってはいても、どうも心の中まで湿気っぽくするから困る。
朝から降ったり止んだり。
そんな雨の様子をぼんやり眺めていると、急に窓の向こうが見えなくなった。
少し驚きながら視線を上げれば、そこには黒田の、にっと笑った顔があって。
そんな彼に、呆れた眼差しを送りながら大げさなため息をついた。
まったく。本当に昔からこいつは変わらない。
そんな事を思いながら。
黒田は店内に入る前に髪や服についた雨粒を大きな手で払い、それから中に入ると、案内をしようとする店員さんを片手を上げて止める。
それから一番奥の窓際の席に座る私を指さし、店員さんと一言二言交わしてからこちらに向かって歩き始めた。
どうせホットコーヒーでも頼んだんだろう。
男のくせに寒がりな黒田が、じめじめした梅雨だろうが35度を記録するような真夏日だろうがホットコーヒーを好んで飲むのは、高校の時から変わらない。