*短編集* 『 - 雨 - 』
「入って。タオル持ってくるから適当に座ってて」
ドアを閉め、鍵を閉めながら言うと、彼女は「おじゃまします……」と遠慮がちに呟いた。
予報にはなかった雨に降られたせいで、彼女のブラウスは濡れ、その内側にある白い肌を透けさせている。
初夏とも梅雨とも言える季節。
締め切っていた部屋の中の空気は高い湿度を含み、重たい。
彼女を初めて見たのは、彼女が入社してすぐの頃だった。
二年後輩として同じ課に配属されてきた彼女の最初の印象はといえば、真面目そうだって言葉に尽きる。
今時珍しい黒髪はストレートで肩につくかつかないかのところで揺れていて。
決してお洒落だとは言えない黒縁の眼鏡は、彼女の小さい顔の半分ほどを覆っていた。
全体的にも小柄な彼女はどこか抜けていて、そのドジっぷりになんとなく目で追うようになったのは一緒に仕事をし出して一週間が経った頃か。
ミスとは言えないような小さなミスでも慌てた顔でガバっと頭を下げて謝る姿や、一生懸命って顔に書いてあるような必死な姿勢が可愛いと思えてきて。
よく見ているうちに、俺の視線に気付いてか、彼女の方もこっちを見るようになっていった。