*短編集* 『 - 雨 - 』
そして、その度に顔を真っ赤に染め上げてパっと目を逸らすもんだから、それが面白くて癖になったなんて言えば、さすがの彼女も怒るかもしれないが。
面白くて、というよりは、困った顔が可愛くてという表現の方が正しい。
もっと言えば、俺だけに見せる顔なんだと思うと、それが嬉しかったんだけど。
まるで、好きな子をいじめる小学生のガキだという自覚はあるから、問題はそんなにはないだろう。
『俺の顔見るといつも真っ赤になるけど、あれってなんで? 俺の事好きなの?』
そんな風に話しかけたのが、今から半年ほど前の事。
心からそう思っての言葉じゃなかった。
ただ、彼女が俺を意識するようになればいいと、そう思ったから最初のトラップを仕掛けただけで。
決して、今まで女を切らせた事がないとか、社内でも面倒なくらいモテるからだとか、そういう事実にうぬぼれての発言ではない。
『えっ……あ、あの、そんなんじゃ……』
『あれ、そうなんだ。残念』
最初のトラップは、あくまでも軽くあっさりと。
彼女が物足りなく感じるくらいがちょうどいい。
その日から、意図的に目を合わせる事をやめて、態度も少しそっけなくして。
彼女に、あれ……いつもと少し違う……?ってくらいの疑問を残す態度ばかりを重ねていった。