*短編集* 『 - 雨 - 』
俺は断じて、からかおうだとか遊んでやろうだとか、そんな気持ちで彼女を惑わせていたんじゃない。
ただ、彼女に俺を好きだって言って欲しかっただけだ。
本当なら俺から言ってもよかったんだろうけど、でも、目を合わせただけで顔を赤くする彼女が頑張って俺を好きだって言う姿を見たかったから。
だから、罠を張った。
そっけなくしたり、かと思えば彼女にも分かるよう特別視したり。
優しくして手なずけて、男を怖いと思っているらしい彼女を、怖くないよって笑顔でこまねいて……そして、十分に意識させたところで、もう一度聞いた。
『そんな顔真っ赤にして。やっぱり俺の事好きなんじゃないの?』って。
十分に張った罠。追い詰めた心。
キリキリと張った緊張の糸の上で、彼女は震える声で『好、き……』と告げた。
俺が見たかった表情で。
それが、二ヶ月前。
俺自身、こんなに入れ込んだ女を彼女にするのは、何にでも熱かった学生ぶりか……いや、初めてかもしれない。
だから、緊張や戸惑いがなかったかと言われればそうでもないハズなのに。
それよりも何よりも、俺の期待通りの反応を返す彼女が嬉しくて……ただそればかりだった。