*短編集* 『 - 雨 - 』


なにせ小学校の頃から一緒なだけに、そういう悪ガキだった頃もよーく知っている。
だから、まずそんなくだらない悪戯が頭を過って、でもさすがに社会人二年目にもなってまさかな……さてどうするかと考えていると。

どうやら本当に通り雨だったらしく、雨脚は一気に弱まり、空が明るさを取り戻す。
誰から見ても、もうすぐ止むだろうというくらいの小さな粒になった雨を見て、ラッキーと小声で呟きながら会社を出た。

なんだかよく分からないけれど、この傘は得体が知れないだけに使いにくい。
私が困っていたら助ける程度の優しさを晴人が持ち合わせている事くらい、知ってはいたけれど。

その優しさを素直に受け入れる事は、もうできなくなってしまっていた。
――六年前のあの時から。


翌朝。結局使わずに済んだ傘を鞄に入れて出社すると、隣の課には既に晴人の姿があった。
向かいに住んでるし同じ会社だしで、結構朝から一緒になる事も少なくないのだけど、今日は早出だったらしい。

晴人の後ろにいつもべったりとくっついている可愛い系女子の山口さんも早出だったのか、もういつもの定位置についていた。
晴人を狙ってるのが一目瞭然すぎるけれど、周りの目とかどうでもいいんだろう、きっと。
よほど、落とせる自信があるのかな……。

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