*短編集* 『 - 雨 - 』


「なに、その反応。そんなに引っかけたかったの? っていうか、一体どんな悪戯仕掛けて……」
「あー、今開けんなって。閉じるの大変なんだから」
「……まぁ、いいけど。ほら、返すってば」

なんだかやっぱり様子のおかしい晴人を怪しく思いながらも傘を再度差し出すと。

「いいって。それやるよ」
「……は?」
「いや、ほら。折り畳み傘のひとつも持ち歩かねーと嫁の貰い手がないだろ」

だから、ほら。
そんな事を言われて、会話を終わりにさせられてしまう。

ちょっと、と呼び止めるも、晴人は背中を向けてしまっていて、傘を受け取るつもりはないみたいだった。
……どんだけ恐ろしい悪戯仕掛けたのよ。

まったく。本当に昔から変わらないんだから。
そんな風に思いため息を落とした時。
課に戻ろうとしている晴人に、山口さんが話しかける。

「内田さんって、ああいう冗談とか言うんですね」

ぴったりと隣に寄り添いながら言われた晴人は、山口さんを一瞬見た後。

「あいつにしか言わねーけど」

そう答えた。

晴人の言葉に、傘を握っていた手に自然とぎゅっと力がこもる。

そう。つまりは晴人にとって私は恋愛対象外。
そんな分かりきった事にまだいちいち痛む胸を知り、ため息を落とした。





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