*短編集* 『 - 雨 - 』


幼なじみの晴人に、死ぬほどの勇気を振り絞って告白したのは高校三年生の時。
その頃から女子にモテていた晴人をいい加減誰にもとられたくなくて。必死の思いで、好きだと告げた。

雨の日、ふたりきりの帰り道での事だった。
『話があるから帰り校門で待ってる』そう書いたメモを晴人の下駄箱に入れて、呼び出して、その後。

恐らく、私の人生の中であれほど勇気を必要としたのはあの時だけだと断言できる。

それまでの幼なじみという関係を台無しにしてしまうかもしれない告白だとは分かってた。
けれど、幼なじみなんて、ただ家が近くて歳が同じだからってだけの、自分じゃ何一つ努力していない関係よりも。
好きと一言告げ、いい方向だろうが悪い方向だろうが関係を変える事の方が大事に思えたから。

せめて、自分の言葉で、晴人との関係を持ちたかった。
だから、後悔なんてしていない。

例えたっぷりと一分くらい呆けた後に返ってきた言葉がなんだろうと。

『誰相手に告白するんだか知らねーけど、練習台にするなよなー』
そんな、一ミリも私の晴人への恋心を疑っていない、からからした笑い声だったとしても。

あの時の勇気を後悔した事なんて、ただの一瞬もない。

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