*短編集* 『 - 雨 - 』


仕事を終えて外の世界に出ると、空は厚い雲が広がっていた。
今日も天気予報は晴れのマークだけだったけれど、またにわか雨でも降るんだろうか。
二日連続で外したとなれば、気象庁にクレームの電話がいきそうだな。

そんな事を考えながら歩き出す。

しかし……今日も山口さんはすごかった。
晴人にべったりぴっとりなのはいつもの事だけれど、なんていうか……あからさま度が凄まじい。
べたべたと腕に絡みついて、猫なで声で甘えて。

私は女だから、ああいうのを見ると相手が晴人じゃなくても頭にきてしまうけれど、男からしたらどうなんだろう。
山口さんみたいに可愛い子に好かれたら嬉しいモノなのかな。
まぁ……嬉しいだろうな、普通。

晴人も、嬉しいんだろうな。きっと。
……そのうち、付き合ったりするんだろうか。

なんて考えて、ああ嫌な事考えちゃったと頭をぶるぶる振る。

いつか、晴人の隣に誰かが並ぶのは当然の事なのに。
それを考えただけで、胸が砕けそうに痛むんだから困る。

だからと言って、勇気を振り絞ってした一世一代の告白はなかったも同然にされてしまうくらいに、私は晴人にとって女じゃないし。
もうどうしたらいいんだか……八方塞がりもいいところだ。




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