*短編集* 『 - 雨 - 』


新しい好きな人を見つけるべきだよなー……。

そう思い始めて、もう何年が経つんだろう。……まったく諦めの悪い女だな。

「智夏」

やれやれと自分の想いのしつこさにうんざりしていると、急に隣に晴人が並んだ。
鞄を持っているところを見ると、晴人ももう仕事は終わりらしい。

「今日は早いんだね」
「おー。毎日残業なんてやってらんねーし」
「サービスだしね」
「智夏んところは今週はみんな早いよな」
「うん。うちの課が忙しくなるのは25日過ぎてからだからね」

なんて事ない会話をしながら、並んでの帰り道。

あの告白をなかった事にした晴人は、あれからも態度は変わらない。
大学は別々だったから告白をしてからの四年間はあまり顔を合わせる事はなくて。でも、なんの因果か就職先が同じで、また毎日顔を合わせる日々が始まった。
けれど、晴人は、高校の時と何一つ変わらない態度で接してくる。

そんな晴人に、ああやっぱり好きだなぁなんて思った私も私だ。
大学四年間、晴人を忘れるために頑張って、それなりに恋愛関係にあった人もいたのに。
そんなのなかった事のように、一瞬で気持ちまるごと晴人に戻ってしまったんだから。





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