*短編集* 『 - 雨 - 』
まったく私はどれだけこの男が好きなんだ……と呆れた時、ふと、思った。
例えば今告白しても、晴人は六年前と同じように練習台として取るんだろうかと。
晴人は今も、私が晴人を男として好きなんて事はないって信じて疑わないんだろうかと。
そう思って……そんな晴人の信頼を壊してやりたくなった。
どんだけ私の恋心を無視するつもりだって……急に頭に血が上っちゃって。
晴人を困らせたいわけではないけれど、もう一度くらい好きだって言ったって許されるハズだ。
また練習台として思うのかもしれない。
それでも……一瞬でもいいから、晴人の心を揺らしたい。
そう、思った。
「……ねぇ、晴人」
心臓はトクトクといつもよりも速く動いていたけれど、不思議とそこまでの緊張はなかった。
心地いいってくらいの、かすかな緊張が背中を後押しする。
「ん?」と、晴人の聞きなれた声が聞こえてから、ゆっくりと口を開いた。
「あのね……やっぱり私、晴人が好き」
――言った途端。
ああ、言葉にしたら気持ちが軽くなるなんて嘘だと悟った。
声に出した途端、膨らんだ想いは形となって目の前に突き付けられて……そのあまりの大きさに心が震えた。
一瞬でいいなんて嘘だ。練習台として思われたっていいなんて、嘘だ。
晴人を困らせたっていい。この先、口も聞いてくれなくなったっていい。
私は……好きをきちんと伝えたい――。