*短編集* 『 - 雨 - 』
六年前のあの時から、ずっと止まっていた時間が私の中でカチリと動き出す。
あれは、告白じゃなかったんだ。
ちゃんと伝わってもいないで告白なんて、なんで思ってたんだろう。
晴人の心の中に伝わらなかったなら、あんなの何の意味もなかったのに。
「晴人、私……」
あの頃と同じように呆けていた晴人が、急に私の鞄を取り上げて折り畳み傘を出す。
そして、雑な仕草でカバーを取ると、ポンとそれを開いた。
雨なんて降ってないのに、と思いながら眺めて……ひらひらと落ちてくる紙切れに気付く。
手のひらに乗った紙切れには言葉が書かれていて……その字が、晴人の文字だって分かり驚いた。
『ごめん』の文字は……一体何に対してなんだろう。
そう考えながら見つめていた紙切れを何気なく裏返して驚く。
『話があるから帰り校門で待ってる』
六年前の私の文字が並んでいたから。
「これ……まだ、持ってたの……?」
その文字を見つめたまま言った私に、晴人が答える。