*短編集* 『 - 雨 - 』


「あの時……智夏が告白してくれた時。
俺、本当は嬉しかったのに……ガキで、あんな風に茶化して……後で死ぬほど後悔したんだ。
大学行って少しした頃、智夏に彼氏ができたって、親伝いに聞いて……すげーショックだった」

ゆっくりと顔を上げると、真剣な瞳が私を見ていた。
ぶつかった視線があまりに苦しそうで真っ直ぐだから、私の胸まで苦しくなる。

「あんな風に茶化せば、智夏、絶対に怒るって思ったんだ。
そしたら、謝って……その時俺も気持ち伝えようって、動揺しながらも思ってた。
でも、智夏、俺に持ってた傘投げつけて……涙浮かべた目で俺の事睨んで家ん中入っちゃったから……。
智夏のその顔見て、取り返しのつかない事したって気付いた」
「でも……だって、晴人、次の日からだって普通に話しかけてきたじゃない……っ」
「あんな事になった以上、俺は本当に練習台にされたって思ってるって智夏に思い込ませないと、普通に話してなんてくれなくなると思ったから……。
俺……智夏を失うなんて考えられなかったから……必死で演技してた」

そこまで言った晴人は、眉を寄せて目を伏せる。

「本当は、俺も自分の気持ち伝えようと思ったんだ。
でも……智夏の告白を茶化した俺が告白するなんて許されない気がして……まず、謝ろうと思った。
だけど、俺が智夏の告白を真剣だって分かってて茶化したなんて知ったら、智夏に嫌われるかもしれないって……。
そう思ったら、怖くなって結局……」

「情けないだろ」と自嘲するように笑う晴人の瞳があまりに苦しそうだから……なんだかこっちが悪い事をしている気持ちになった。


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