*短編集* 『 - 雨 - 』
それから俺たちは、よく話すようになりふたりの距離は一気に近づいた。
というよりも、不思議な話だが、俺は美織に最初から距離みたいなものを感じた事はなかった。
初めて逢った時から美織の傍が心地よく、一緒にいるのが当たり前のようなそんな気がしていたし、聞いてみると美織も同じだったらしい。
不思議だとは思ったが、でも、そこに対して疑問は持たなかった。
傍にいられればそれでよかったから。
でも。
世の中はそんなに甘くない。
そもそも俺と美織は住む世界の違う人間。地位、名誉、財力。すべてを持つ、美織の周りを取り巻くヤツら。
そいつらからしたら虫けら同然の俺。
交際を認めてくれるハズがなかった。
別にひどいとは思わない。そういう世の中だって事は生きてきた時間の中で知っていたから。
だけど……だからって諦められるものとそうじゃないものは存在する事を、美織に逢って初めて知った。
「大事に育てた娘を何の学歴もないただのサラリーマンの俺なんかに奪われたら、親父さん怒るだろーな」
「怒って、それから泣くかもね。お父様は本当に可愛がってくれてるから」
クスクスと笑う美織に、苦笑いがもれる。
本当に……いいのかと。