*短編集* 『 - 雨 - 』
「あーあ。私もそろそろ浮気でもしようかな。
祥太と同じように自分にも後ろめたい部分を作れば、祥太の事も大目に見られる気がするし」
そんな話を、今日、大学時代からの友達であり、今は同僚でもある風間にしていて。
風間は祥太の友達でもあるから、「本当しょうがないよね、祥太は」なんてひとりでべらべら話しているうちに、なんでだか涙が溢れてきてしまってたのがついさっきの事。
我慢しているつもりもなかったのに、まるで、堰をきったように溢れ出した涙が止まろうとしないから「ごめん」って笑いながら目をぐいぐいこすって。
何度も謝りながら頬を伝う涙を拭いている私の手を風間が掴んだのは……私が六回目くらいのごめんを言った時だった。
「風間……?」
それぞれ掴まれた両手首に驚いた私の視界に映ったのは、真剣な顔をした風間の姿で。
視界は涙でぼやけていたけれど、目に溜まっていた涙が粒となって頬を流れ落ちると、いつの間にか目の前にまで近づいていた風間の表情がしっかりと見えた。
急には止める事のできない涙をポロポロとこぼしながら風間をぼんやりと眺めて、風間も、私をじっと見つめていて……しばらくそうした後、風間がツラそうに顔を歪めた。
そして。
「俺が浮気相手になってやろうか」と告げた。