*短編集* 『 - 雨 - 』
戸惑う暇もなく、涙の止まらない目尻に何度も優しく口づけられ……甘やかされる。
まるで慰めるように触れてくる唇とぬくもりとそれから、優しくも熱いまなざしに……。
水に浮かぶ泡みたいにふわふわとした気持ちのまま、誘われるように風間の頬に手を伸ばした。
そして、条件を告げる。
「じゃあ、ひどくして。
私が一生、この罪を忘れられないように」
そう言った私を風間はツラそうな瞳で見つめて……そして、唇を合わせた。
「ひどくしてって、言ったのに……」
隣で眠る風間を見つめながら、ぽつりと呟く。
私の出した条件を飲んだように見せかけて、風間は終始優しかった。
触れる指先も、体をなぞる唇も、落とされる口づけも……眼差しも。全部が優しくて……愛に満ちていた。
言葉なんかなくても気付いてしまった風間の気持ちに、唇を噛みしめると痛みがじわりと広がる。
胸の奥に感じている痛みと同じように。
今感じている懺悔は、祥太に対してなのか……それとも風間に対してなのか。
風間の黒い髪をそっと撫でる私の頬を、静かに涙が伝っていた。
甘く気だるい空気の流れる部屋。
警告音のように。何かを知らせるように雨粒がガラスを叩く音だけが響いていた。
もう、戻れない。