*短編集* 『 - 雨 - 』


「結婚する事にしたの。その報告したかっただけ」

何でもない事みたいに言ってにこりと笑うと、無理やり吊り上げた口の端からヒビが入って頬がボロボロと崩れ落ちるかと思った。

ここ数年、黒田の前で笑おうとすると起きる症状だ。
頻度も多く症状も重い。これが病気なら恐らく末期だと思う。

恋の病だなんて事を、26にもなって言うつもりもないけれど。
でも、なんらかの病にかかっていてしかも末期の私が必死に笑ったっていうのに。

黒田が、へたくそなポーカーフェイスさえできずに驚きだかなんだか分からない表情を浮かべたりするから、一気に頭に血が上った。

なんで、そんな顔するのよ。
いつも、その一歩は絶対に崩さなかったのに、なんで今――。

動揺のあまり見ていられなくなってアイスティーに手を伸ばすと、ようやく時間を取り戻した黒田が口を開く。
顔を見なくても、慌てたように笑みを浮かべているのが手に取るように分かった。

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