*短編集* 『 - 雨 - 』


「榎本?」
「会計、済ませとくから黒田はゆっくりしてれば」
「は?」
「話は今のだけだし。また連絡する」

レシートをとってレジまで行き、会計を済ませる。
それから持ってきていた傘を持ち外に出ると、雨は先ほどよりもさらに小雨になっていた。

ミストみたいな雨が空に舞うのを、ぼんやりと見上げて……今日までの十年間に想いを馳せる。

黒田と出逢ったのは、高校二年の時だった。
出席番号が前後だったから席も近かったし、偶然委員会も一緒だった。
だからか、自然と話す事が多くなって……そのうちに、クールぶってるのに結局世話を焼くところが可愛いなと発見して。
一緒にいる事が多くなった。

馬鹿な話をしたり、じゃんけんで負けた方がぱしりになったり。
どんな事でも相談って形をとられると断りきれない黒田が安請け合いした頼まれごとを、文句言いながら手伝ったり。

隣にいるのが当たり前って言えるような、何もないけど心地いい、そんな関係をずっと続けてきた。
黒田の隣には私がいたし、私の隣にはいつだって黒田がいて……。


私は、黒田が好きだった。
友達としてじゃなく、恋愛として。






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