。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅴ・*・。。*・。
用は済んだし、とっとと切り上げるに越したことはない。
あたしはバッグを掴むと、その中に御園医院の名前が書かれた紙袋を放り入れて踵を返した。
そのときだった。
~♪
バッグの中でスマホが着信を報せた。
マネージャーからだった。
今日はオフの日だし、特別な予定もない。
「はーい。もしもし~」
間延びした返事で受け応えると
『you!大変よ!!今すぐ事務所に来て!!』
マネージャーのどこか緊迫した声が聞こえてきて
「何……。まさかまた警察が……あー…と名前何だっけ…とにかくあの男が来たの?」
送話口を手で覆って声を潜めると
『違うわ。けれど大変なことになったの。詳しい話は後で話すからとにかく来なさい』
最後の方は命令口調だった。一方的に言われて電話は切れた。
大変なこと、って何よ。
マネージャーが血相変えること、あたししてないわよ?
怪訝そうにスマホを仕舞って、バッグを肩に掛けると
「それじゃね。あたしこれから仕事だから」
鴇田に”お別れの挨拶”
「イチ、警察とか言葉が聞こえたが」
鴇田は吸っていたタバコを灰皿に押し付け火を消すと、さっきとはまるで違う鋭い両眼であたしを睨み上げてきた。
耳ざといヤツ。
実の娘だって言うのに、まるで容赦がないその視線にあたしは唇を引き結んだ。
「別に?大したことないわ。落し物したからお巡りさんが届けてくれたの。
ダイヤのネックレスよ?前にもらったの」
咄嗟の嘘を鴇田は信じていないのかいるのか
「まぁいい。だがサツの厄介にだけはなるなよ?」
と一人締めくくった。
何よ。さっきは何か聞きたそうだったのに。
「もういい?あたし行くね」
ふい、と顔を逸らし今度こそ部屋を出ようと歩き始めたときまたも
「イチ」
呼び止められた。
「何」
若干、うんざりしながら鬱陶しそうに振り返ると
「一緒に
暮らさないか―――?」
鴇田は至極真面目に言ってきて
は――――……?
いや、意味分かんないですけど。あんた結婚してあの秘書の女と一緒に住むンでしょ??
あたしは三人仲良く暮らすなんてゴメンだからね。
あたしは目を開いたまま鴇田を凝視していると
ごほん
鴇田は大仰に咳払いをして
「いや…今の発言は気にしないでくれ。
それよりさっきお前に渡した眠剤、強力なものらしいからな。車の運転をするときは飲むなよ」
真剣に言い置いて、あたしのバッグを指さし。
「それぐらい分かってるわよ。子供じゃあるまいし」
ふん。
今度こそあたしは顔を逸らして、部屋を飛び出た。
何やってんだ、あたし。
親子みたいなことやってんじゃないわよ。
……って、親子かぁ……