。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅴ・*・。。*・。
玄蛇が何か言う前に
「あんたでしょ!これを撮ったのは!」
そう怒鳴ってあたしは立ち上がった。
食事をしたり、会話を愉しんだり、或は生演奏に聞き入ったり……各々ゆったりと時を過ごしていた客たちが、あたしの怒鳴り声を聞いてそれぞれ動きを止め何事か顏を上げる。
バラバラと床に落ちた写真の一枚を丁寧な手つきで拾い上げながら、玄蛇があたしを見上げる。
― 君のために撮った
とでも、言いたげな悲しそうな表情。
さっきファミレスの窓から見た表情と同じものを浮かべて玄蛇が困惑したようにあたしを見上げている。
「こんなこと頼んでないわ!」
「もちろん、頼まれてはいない。これはオプションだ。サービスだから安心したまえ」
熱くなっているのはあたしだけで、あくまで玄蛇は冷静だった。
いつもの軽口。
それがまた苛立ちを募らせる。
何かを言い返したかった。けれど玄蛇を黙らせるとっておきの言葉なんて見つからなくて
「バカにしないでよ!!」
そう怒鳴るのが精一杯。
あたしは五千円札を財布から取り出し、テーブルに叩き付けるとくるりと身を翻した。
「イチ――――…」
玄蛇があたしを呼び留めようと、腰を上げる気配がしてあたしは振り返った。
「ああ、それと―――大雨が降る気配があるわ。雷雨になるかもね。
あたしはあんたを泊めるつもりもないから、そのつもりで」
冷たく一言言って、今度こそ
あたしはバーを立ち去った。