。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅴ・*・。。*・。



俺は朔羅より30分早く家を出た。


当初の予定では二人一緒に出る予定だったが、俺たちの関係を疑っているマサさんが目を光らせているから、時間差だ。


駅からMILACLEランド行きの直行バスが出ている。


改札の手前でぼんやりと朔羅の登場を待つこと10分。


学生は夏休みに入ってるからな、若いカップルたちが手を繋ぎながら、あるいは肩を抱き合いながら改札の入口を行ったりきたりしている。


これからみんなどこかへ行くのだろうか。


世の中では―――


こんなに簡単に手を繋げるのに、肩を抱けるのに





俺は―――


そんな簡単なことすらできない。






俺は自分の手のひらをまじまじと見つめた。


何で俺……あんなに乱暴に手を払っちまったんだろう。


『触るなっっっ!!!』


何であんな風に怒鳴っちまったんだろう…


もっと言い方だってあったろうに。


朔羅、悲しい顏してた―――突然拒絶されて困惑しただろう。


対馬兄妹も、あれから二日経ったのに、連絡の一つ寄越してこない。


盛岡には飛んだのだろうか、タイガのこと少しは分かったろうか―――


自分では何もできないことが、歯がゆい。


目の前を、明るい笑い声で会話しながらカップルの一組が横切っていく。そのカップルは俺たちと同じ年代に見えた。


手を繋ぎ合い、何が楽しいのか笑い声を絶やさず、改札の方へと向かって行く、


俺だって―――


あんな風に、朔羅を何の不安もさせず、ただ無邪気に俺の隣で笑っていて欲しい。




願うことはたった一つ―――


でも、そのちっぽけな願いさえも、俺には叶えられない。







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