。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅴ・*・。。*・。



それから三分も満たないときだった。


メイク……しっかりしてきたのに、ちょっと落ちてるし……


玄関口の鏡で顏をチェック。


瞼の上に引いたアイライナーがちょっとだけ滲んでいた。


慌てて指の腹で拭っていると


ノックもインターホンの音も無しに予告もなく突然扉が開いた。


びっくりし過ぎて声も挙げられなかった。


だけど扉を開けたのは―――


専用のエレベーターがあるのに、階段でも駆け上ってきたのか息をきらし、肩をぜいぜい揺らしながら


響輔が現れて―――


まだメイクを完全に直しきれてないあたしは恥ずかしさから思わず片手で目の辺りを隠した。


その指の隙間から響輔の姿が見えて……


響輔は額に浮かんでいるのだろう汗を手の甲で乱暴に拭いながら


「汗臭かったらほんまにごめん」


と前おいて、腕を伸ばしてきた。


「え………――――?」


わけが分からず……今にはじまったことじゃないけど、それでも戸惑っているあたしの頭を引き寄せ、体ごとふわりと抱きしめられる。


響輔の体からは、汗の匂いなんて微塵も感じられなくて、代わりに爽やかな柔軟剤と……ほんの少しタバコの香り……あとは


ママが大好きだった柑橘系の……すっきりとしているのにどこか柔らかな……そんな香りに包まれて、


恐らく響輔の胸の中であろう暗い視界の中


何が何だか分からずひたすらに目を瞬いていると





「まぁた、泣いとったん?」





と、聞き慣れた柔らかな関西弁を聞いて、すぅっと涙が引っ込む気配がした。


「今度はどないしたん?」


胸に抱かれたまま、あたしの耳の横の髪をそっと掻き揚げられる。囁くような言葉に心配する声がにじみ出ていた。


恥ずかしくて言えないわよ。


まさか、


鴇田の冷蔵庫でキリさんのプリンを見つけて、泣いた。なんて―――








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