。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅴ・*・。。*・。




でも、響輔に抱きしめられて途端に力が抜けた。


手の力を緩めると、あたしの手からプリンの瓶がすり抜けて、玄関の大理石の床に、こつんと落ちた。


響輔が不思議そうに目をまばたき、やがてあたしからちょっとだけ体を離すと床に転がった瓶を拾い上げた。


「プリン……?食うん?」


「……違う……」


「ふぅん」


響輔が短く頷きまじまじとそれを眺めて、蓋部分に書かれていた名前を見ると


ちょっとだけ明るい声で笑った。


響輔は―――頭がいいくせに、人の気持ちには鈍感で……だけどその鈍感さが時にはありがたかったりもしたけれど、今回は妙に冴えていそうだ。


「なるほどなぁ。泣いてた理由はこれやったんか。


ここ、鴇田さんの部屋やろ?入ったのはじめてやけど」


何もかも見透かされたようで、しかも子供みたいな考えを浮かべているあたしを響輔は何て思うだろう。


『ガキかよ』とか憎まれ口をたたかれる前に


「べ、別に!こんなプリン何ともないわよ!新しい家族なんて要らないとか思ってないからねっっ!」


あたしは慌てて響輔からプリンの瓶を奪うと、リビングルームの方へと目配せ。


響輔はそれに反論せずにスニーカーを脱ぐと、スリッパも履かずにさっとあたしの手をとって勝手にリビングの方へ向かい出す。


「え……ちょっと?」


またも響輔の行動が分からず、ついていくことしかできないあたし。


ここは鴇田のマンションだからあたしにとってはホームなのに、完全アウェイな響輔の方に主導権を握られている。


でも繋いだ手を離したくない―――


リビングに向かう廊下の途中、響輔は振り返って目を細めてにっこり笑った。







「二人で食ってまお、このプリン。


そしたら……プリンが無くなったら、






一結かて余計なこと考えんでもすむやろ?」






何よ、その子供みたいな考え……あたしよりガキっぽいし。てかそもそも根本的な解決にならないし。


でも



どうしようもなく







嬉しい。







響輔は―――


零れ落ちた何かを拾ってくれて、埋めてくれる。







あたしにとっての唯一の男(ヒト)










ねぇ





「大好きだよ」







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