。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅴ・*・。。*・。
包まれた頬が温かいのは鴇田の体温か、それとも鴇田の掌から流れる血の温度なのか―――
鴇田の血は半分あたしの血と同じ。
あたしは触れられた自分の頬の、鴇田の手の上に自分の手を重ねると
「戸惑ってるのは一緒だよ。
あたしもはじめて人を好きになったから、どうしたらいいのか分かんないの」
鴇田の血が付いた親指があたしの目尻を優しく拭う。
どうやらあたしは泣いてたみたいだ。
響輔に恋をして、本当の愛を知ったから―――
そして鴇田はママを捨てたワケじゃないと知ったから。
鴇田がほんの僅か切なそうに瞳を揺らし、さっき見た、たぎるような怒気は微塵もなく、ただただそこは空虚だった。
そう、空っぽなのだ、この男は。
色んなものを無くして、
愛を無くした。
鴇田は酷くぎこちなくあたしを引き寄せ、これまたぎこちなく背中に手を回すと頭をそっと包んで引き寄せた。
「響輔にそこまで覚悟があるのなら、俺は何も言わない。
ただ、アイツがお前を傷つけるのなら俺は
全力で阻止する。
これが俺のやり方だ」
俺は―――愛し方が分からない。
鴇田はあたしの耳元でそっと囁いた。
前に玄蛇も私にそう言った。だけどそれとは種類が違う。
あんたは愛し方が分からないんじゃない、愛することを失ったの―――
それでも響輔は鴇田にない部分であたしのこと、想ってくれてる。それは父親が娘に向ける愛ではないけれど。
そう思っていいの?
分からない。
空白の19年間は時間にして長すぎた。あたしは―――この一瞬で全てを取り戻せたとは思わない。
でも“あの一瞬”は、
確かに『愛』を感じた。
響輔
もう一度言って―――?
『愛してる』
って。嘘でもいいから。
そしたらあたしは
救われる。
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