。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅴ・*・。。*・。
電柱からそっと顔を出し、ストーカーの様子を窺っていると、ヤツは大きな日本家屋の玄関先でインターホンを押していた。
だ、誰の家だろう。
でもインターホンを押すぐらいだから、アイツの家じゃないことは確かだ。
中から応対する声が聞こえたけど、応対した人もストーカーの言葉も聞き取れない。
「どこだろ……誰かの、家?」にしては大きくて立派だ。造りがちょっとだけ朔羅のお家と似ている気がする。
進藤先輩はちょっと難しい顔つきで
「ちょっと噂になってんだけど、あそこヤクザんちじゃないかって。ここいらでは有名だって他高の連中が噂してた」
と言った。
ええ!!?
ヤクザ!!!
「……ってことは、朔羅の所の縄張りってこと?」
「それだったら鴇田の組長の耳にも入ってるだろ。
いっときとは言え新垣 エリナのカレシ役やったワケだし」
なるほど。
進藤先輩は、時々すごい。
インターホンの応答から数分後、正面玄関ではなく、その脇の小さな黒い木戸から誰かが出てきた。
あまり大柄ではなさそうな男だったけれど、進藤先輩が「ここがヤクザの家」と言った通り、頭が悪そうなチンピラみたいな男が一人出てきて、ストーカーが何かを手渡していた。
ここからじゃその“何か”が分からない。茶色っぽい封筒のようにも見えるけど。
チンピラみたいな男は中身を確認しているときだった。
TRRRR!
タイミング激悪であたしのケータイの着信音が鳴った。
静まり返ったこの場所で当然その音は、チンピラとストーカーにも聞こえたようで。
「誰や」
とチンピラが電柱に隠れているあたしたちを気にしている。
ど、どうしよう!
着信は千里からで、慌てて電話に出ると
『リコ~!どこにいるんだよ、ファミレスで待っててくれって言ったろ』と千里の能天気な声を聞いて
「今取込み中なの!急用ができたから約束はキャンセル」と小声で言うと、何を考えてるのか先輩があたしのケータイを奪い、強引に通話を切った。
電話を切ったところで、あたしたちのことはバレてるだろうから、今からどうやって逃げ出そうか考えているときだった。
先輩が電柱に手を付き、真剣なまなざしであたしを見下ろしていて……
先輩の腕の中にすっぽり収まったあたしは、まさに『壁ドン』されてる状態。
「他の男の声がしたんだけど、まさか浮気?」
先輩の発言にあたしは目をまばたくことしかできなかった。