。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅴ・*・。。*・。



思わず窓の下を覗きこむと、4階分の地面には誰も居なかった。


どこへ消えた!?


慌ててキョロキョロと視界を彷徨わせていると、


突如、頭上に黒い影が翳った。




「下を見ると危ないですよ、お嬢さん」




さっきのドクターの声が振ってきて、慌てて顔を上げると、ドクター……だと思っていた男はちょうど一階上に位置しているベランダだろうか、窓枠だろうか……とにかく格子みたいなものを片手で掴んでいて、器用に壁で両脚を支えている状態だった。


びっくりした。


まるで気配を感じなかった。


「お前……!何もんだ!」


怒鳴り声を挙げて、そのなっがい脚を掴み下ろしてやろうかと思い、勢いよく腕を伸ばしたが


男は素早い動きでそれを避けると、反対側の手で再び格子を掴み、今度は壁から脚を離した。





「やれやれ、噂には聞いてたけど、血の気の多いお嬢さんやな」




関西弁―――……?


それに、並外れた脚力と上腕。動きも俊敏だ。


何もんだ!?


とりあえず、「引き落としてやんよ!」と再び腕を伸ばしたが、あたしの手は宙を描いて、上体がふわりと窓枠を越えた。


「おっとぉ」


そのあたしの体を支えたのが、ドクター(?)もどきの男。片手で格子を掴んだまま、片腕であたしの体を支えてる。


「ほんま、“暴れ馬”やな」と、その男はうっすら笑い


「乙女を『暴れ馬』呼ばわりするな!!」


助けてもらったことを棚にあげ、男の腕を掴もうとしたが、それより早く男が身を翻し、今度こそ格子から手を離した。


男の体は地上に真っ逆さま、かと思いきや、ちょうど1階下のベランダにひらりと飛び降り


「楽しかったですよ。ほな、また」


と、投げキッスをして、今度こそ地上に降り立った。


きれいに片足で着地したその姿を見て、あたしは目を細めた。









ではないことは確かだ。


戒がアイツを見てあっさり引き下がったぐれぇだしな。


しかもアイツの動き、戒やキョウスケに似てる。




何もんだ?





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