。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅴ・*・。。*・。
*琢磨Side*
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== 琢磨Side==
鴇田から電話があったのは20時ちょっと前だった。
『ご迷惑をお掛けして申し訳ございません』
あいつの第一声がそれだった。
「んなこたぁどーだっていい。で?イチは?
無事なんか?」
とせっかちに聞くと
『ええ、衛の処置のおかげで、何とか一命を取り留めました。
今は意識も回復しています』
と、淡々とした答えが返ってきた。
温度の感じられない―――声だった。
「はぁ」
俺の方が何故だか大きなため息をついて、額に手を当て、デスクに肘をついた。
『申し訳ございません、タイガとも連絡がつかず、今日の締日は―――……』
と、言いかけた言葉を、相手に見える筈などないのに手をふりふり
「その件はいい。何とかした」
金と権力でな。
『何とかした…とは…どのような手を使われたのですか』
と低く聞かれ、適当な言い訳を取り繕って何か答える前に
『金と権力をフル行使されたワケですね。
では私は今からそちらへ窺います』
バレてやがる。さすが鴇田だぜ。てか知ってんなら聞くなよ。
だが、俺は締日よりうんと大事な…鴇田に言えない隠し事がある―――
絶対勘付られたくない秘密がな。
俺はちらりと、デスクの引き出しに視線を移した。
鍵付きの、それもかなり特殊な鍵……その中には
タチバナと彩芽と交わした、血の契約書―――
まさに血判証が入っている。今日ヤツらと会う約束はしていないが、イチが自殺未遂と言う不測の事態に備える必要がある。何せイチはスネークと繋がっているからな。
―――裏切りは『死』を意味する。
「お前はイチの傍についててやれ。今日は全員、早帰りデーだ」
俺は視線を戻し、ふん、と鼻息も荒く言ってやると
『そう―――ですか……では、お言葉に甘えさせていただきます』
「あー、休め。存分にな」
と言って電話を切り、ついさっきまで居た来訪者の為に茶を出していたキリが、空のコーヒーカップを片付けていて、でも電話の内容が気になっていたに違いない。
メガネの奥で俺を見上げてくる。
キリが何も言い出さないうちに
「イチは無事だ。
鴇田が今イチに着いている」
と言うと、キリが分かりやすく安堵のため息をはいた。