。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅴ・*・。。*・。
先輩が花火セットを出して、中に入ってる蝋燭をライターでかざし、アスファルトの上に立てると、小さな炎が夜闇にほんのり浮かび上がった。
その小さなオレンジ色が幻想的で、きれいだった。
「ほら」と手渡された花火の先に火を点けると、花火の先からきれいな色の火花が散った。
「わぁ、きれい!」
あたしがはしゃぐと先輩も笑い、同じように花火の先に火を点け
その花火を持ちながら先輩は辺りを意味もなく走り回った。
風が花火の煙を流して、辺りが白いもやがかかる。
「先輩!ちょっと、周りが見えませんよ」と笑うと
「ほら、リコちゃんもやってみ!ぜってぇ楽しいからっ」
と言われ、あたしもそれに倣った。
先輩の言う通り、花火を持って走り回るのは楽しかった。(←良い子の皆様は絶対に真似しないでください)
まるで童心にかえったみたい。
いけないことをしているのに、それを咎める大人がいなくて、でもいつ大人が来るかドキドキしたちょっとスリルがあって。
そんな感じ。
やがてあたしの缶チューハイが空に近づくと、花火は終盤……
お決まりの最後の線香花火だけになった。
細い線香花火のこよりを持ちながら、先に灯った火種を見つめて
「あたしは、この線香花火なんです」
と言うと
「え?」先輩が目を上げた。タバコを吸ったまま聞いてきたから、煙が変な風に途切れる。
「あたしが線香花火だったら“you”は大輪の打ち上げ花火。
空に咲き誇る、きれいな
きれいな―――……」
バカなあたし。
最初から“you”に勝ち目なんてなかったのに。
あのとき引き返すべきだった。
響輔さんがあたしのお部屋に来たとき。いけないと思いつつ響輔さん宛ての電話を取ってしまったときに―――
何も知らなかったら―――
こんな風に傷つくことなかったかもしれない。