。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅴ・*・。。*・。
――――何故
自分でも自分が分からなかった。
戒以外の男とキスなんてぜってぇありえなかったのに、あたしは―――
タイガの唇が離れると同時に離れていった顔は表情と言う表情を浮かべていなかった。
さっきのキスのときのような優しいような悲しいような、そんな表情を全て風がさらっていったかのごとく、その眼の中に凶暴な赤い線が渦巻いているように見えて
ドキリ
と意味もなく心臓が鳴った。
――――怖い
逃げなきゃ
今度こそ本能が騒いだ。でも、逃げなきゃと思ったが、あたしの体はやっぱり金縛りにあったように、一ミリも動けない。
タイガはあたしの額を指さすと
「白虎の小僧共に伝言だ。
これは宣戦布告。
お前たちの好きにはさせない―――と。
黄龍は私の手の中―――
今度こざかしい真似をしてみろ?
今度こそ、黄龍を
闇に葬る」
白虎の……小僧共……
闇に葬るって、あたしを殺すってこと……?
はじめて聞いた、そんな口調で……だって、タイガは戒やキョウスケのことが好きなんだろ?
でもタイガの表情が語っているのは、好意ではなく、突き刺さるような冷たくて、凶暴な眼の奥が
ただ
憎しみ
と言う感情に支配されているように思えた。
あたしの中にはそれぐらい考えられるほどゆっくりなものだったと思ったけど
でもそれはほんの一瞬で、次の瞬間タイガはニヤリと不敵に笑うと
あたしの肩を軽く押した。
それほど力を入れてないように思えたのに、さっきキスされたときはバカみたいに微動だにできずにいたのに
あっけなく
体が後退して、
ふわりと宙に浮く感覚があった。
この下は
―――階段だ。