。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅴ・*・。。*・。
「違う、“あの男”じゃない。白虎のガキ共だ。
和則と、そう年齢は変わらないが、危険には変わりない」
電話の相手は
『びゃっこ??』と聞き慣れない単語を、口の中で復唱して
「我々にとっては敵でもないし、味方でもない。だが油断はならない」
と口早に説明すると
『どうすればいいの?』と呑み込みも早く電話の相手が聞いてきて、
「さっきも言ったが手は打った。君は心配しなくていい。
とにかく僕からの指示は和則を連れてそこを出ろ、と。それだけだ。いいね」
言い聞かせるように言うと
『分かったわ』と女は再び頷き、今度こそ電話は切れるかと思いきや
『巻きこまれて迷惑って言ったけれど、ほんの少し“嘘”よ……
14年前、あなたの意見を押し切って和則を生んだ私にも非があるわ』
彼女の沈んだ声を聞き、僕は電話機の上に肘を付き手で顔を覆い、眉を寄せて無理やり笑った。
「“非がある”なんて、そんな言い方しないでくれ。
僕は―――和則を生んでくれた君に感謝してるし、君と和則を
愛している」
『ええ……私も…さっきあんな言い方したけれど“産まなきゃ良かった”なんて思ったこと一度もないわ』
僕も同じことを考えていた。
椿紀から妊娠を聞かされたとき、僕はすぐに中絶するよう進言した。けれど椿紀は断固としてその意見を受け入れなかった。
守るものが出来ると―――ひとは弱くなる。
いや、違うな。“男”は弱くなる。
だが“母親”は守るために―――強くなる。
だから和則を椿紀の元に置いた。その方がちゃんとした教育も受けられるし、何よりまともな生活を送れる。
それこそ、極道の世界と無縁な世界で―――